遺伝子制御学 – 遺伝子制御学部門 –

ようこそ山本研究室へ

私たちの研究室では、細胞内の品質管理やリサイクルを担う「オートファジー」の研究を進めており、中でも特定のタンパク質やオルガネラを標的とする「選択的オートファジー」に着目しています。オートファジーは神経変性疾患、がん、細菌感染、初期胚発生など様々な疾患や高次生理機能に関わっていますが、その多くは「選択的オートファジー」に関連するものと考えられます。私たちの研究室では、選択的オートファジーの分子メカニズムについて、個々のタンパク質の機能といったミクロスケールから、タンパク質高次会合体や生体膜といったメゾスケールの機能・構造までシームレスに理解することを目的としており、これをマクロスケールでの疾患発症メカニズムまで展開することでオートファジー関連疾患の診断・予防・治療に繋げたいと考えています。

主な研究内容

細胞は常に合成と分解を繰り返すことで恒常性を維持していますが、この「分解」の中心を担うのがオートファジーです。オートファジーは「細胞が自己の細胞質成分をリソソーム・液胞で分解する現象」で、マクロオートファジー(いわゆるオートファジー)、ミクロオートファジー(リソソーム膜やエンドソーム膜の膜陥入)、シャペロン介在性オートファジー(膜透過)の3つに分けられます。マクロオートファジーを単にオートファジーと呼ぶことも多く、これは1992年の大隅良典教授による出芽酵母オートファジーの発見を端緒とします(2016年に大隅良典教授はノーベル生理学医学賞受賞)。

マクロオートファジーが誘導されると、細胞質の一部を取り囲むように隔離膜(伸張中のオートファゴソーム膜を隔離膜と呼びます)が伸張し、膜端が閉じて二重膜のオートファゴソームが形成された後、リソソームと融合することでその内容物が分解されます。マクロオートファジーによる分解の多くは非選択的と考えられていますが、特定のタンパク質やオルガネラ(品質低下したタンパク質やオルガネラ)が隔離膜上の因子に認識されることで特異的に分解されることがあり、これを「選択的オートファジー」と呼びます。疾患に関連するタンパク質の多くが選択的オートファジーの標的になっていることが知られており、その多くが凝集体あるいはタンパク質の特殊な会合体である「液滴」を形成します。私たちは、このような疾患に関連する選択的オートファジーに着目して研究を進めており、特に液滴を標的としたオートファジー(液滴オートファジー)を研究対象としています。

1.液滴オートファジーとメゾスケール機能の解析

私たちは、鉄貯蔵タンパク質であるフェリチンが液-液相分離によって液滴を形成することを報告しており、このフェリチン液滴がマクロオートファジーだけでなく、ミクロオートファジーでも標的化されることから、液滴ミクロオートファジーという新たなコンセプトを提案しています。この研究成果は、細胞内の鉄ホメオスタシス研究に新たな知見を与えるとともに、膜伸張を伴うマクロオートファジーと膜陥入を伴うミクロオートファジーで共通する基質標的化メカニズムの存在を示唆しており、その背景には「液滴」特異的な機能があるものと考えています。私たちは、従来型のタンパク質-タンパク質相互作用の解析に加えて、液滴形成(高次会合)による弱い相互作用の積算や膜親和性の獲得といった「集合化・メゾスケール化」に伴う新たな機能に着目して研究を進めています。

2.オートファジー活性定量法の開発と応用

オートファジーの研究にはオートファジー活性の定量が不可欠です。私たちは、哺乳類細胞で利用可能な高感度オートファジー定量法の開発を行っており、様々なタイプの選択的オートファジーについて個別に高感度定量する技術開発を進めています。また、これらの高感度定量技術に基づいた新たなスクリーニング系の開発を行っており、選択的オートファジーの新たな分子メカニズムの発見を目指します。また、個体レベルでのオートファジー活性定量法の開発や新規オートファジー関連バイオマーカーの探索を進めます。